洗練された美の戦略
18世紀フランスの宮廷を彩ったポンパドゥール夫人は、ドレスを通じて自身の地位と影響力を確立しました。彼女が身につけた「ローブ・ア・ラ・フランセーズ」は、単なる衣装ではなく、政治的・文化的影響力を示す重要な表現手段でした。
ポンパドール夫人が着用していたドレスは、典型的なフランス宮廷式ドレス「ローブ・ア・ラ・フランセーズ」でした
このドレスの特徴は以下の通りです:
- 身体にフィットした前開きのローブと、艶やかなサテン製のジュップ(スカート)
- V字に開いたローブの下に三角形のパネル状の「ピエス・デストマ」(胸当て)
- 豊富な布地を使用し、立体的で優雅な印象を与える
魅惑のドレスデザイン
胸元の演出
- エシェル(梯子状のリボン)による装飾
- ピエス・デストマ(三角形の胸当て)で魅惑的なデコルテを強調
袖の演出 アンガシャント
- アンガジャント(engageante)は、18世紀フランスのロココ時代に流行した、ドレスの袖口を飾るレースや薄い布製の装飾です 材質:多くの場合、最高級のレースで作られていました。
- デザイン:通常、複数段(しばしば三重)の飾りとして使用されました。
- 目的:女性の腕を優雅に見せ、同時に豊かさと贅沢さを表現するためのものでした。
- 重要性:当時の貴婦人たちにとって、アンガジャントは財力と地位を示す重要なファッションアイテムでした。
- 例えば、ポンパドゥール侯爵夫人は、ベルギーのブリュッセルレースやマリーヌレース、フランスのアルジャンタンレースなど、最高級のレースを所有していたことが知られています
色彩とディテール
- ローブの襟から裾、ジュップの裾にかけて重ねられた共布の縁飾り
- シャンパンカラーのサテン生地
- 繊細な造花の配置
- 銀糸レースによる上品な輝き
- パステルカラーを好んで使用
- 繊細で複雑な模様や華やかなデザイン
- 花柄や縦縞などの模様が特徴的
アクセサリーと小物
- 扇子を持つことが多い
- 首にリボンや真珠のネックレス
- 手首に真珠のブレスレット
- 足元はミュール
ブーシェによる1756年のポンパドゥール夫人の肖像画には, 典型的なローブ・ア・ラ・フランセーズが描かれている. 前身頃がぴったりと身体にそった前開き形式のローブとジュップは艶やかなサテン製で, 胸にはリボン結びの列(エシェル). V字形にあいたローブの下に三角形のパネル状のピエス・デストマ, お揃いの首のリボン, 最高級レース製の三重のアンガジャント, ローブの衿から裾, ジュップの裾にかけて重ねられた共布の縁飾り, その上に銀糸レースとバラの造花. さらに造花は胸, 頭, 袖口の飾りにも繰り返されている. なかでも着装する度に縫い止められていたピエス・デストマは, 絹地に装飾がされたもの. エシェルなど, 特に豪華に装飾された部分であり, コルセットによって持ち上げられた乳房を, より魅惑的に強調していた. 過剰装飾は全体としての完璧な調和を保ち, 洗練された精細な美の表現を見せている. ローブ・ア・ラ・フランセーズはフランス革命期まで宮廷用衣装として続いた.深井晃子(監修). 2010-4-15. 『世界服飾史』. 美術出版社. p.90.
髪型
「ポンパドゥール風」と呼ばれる高く結い上げた髪型が特徴的で、これは後の時代にも影響を与えました
影響力
ポンパドール夫人のファッションは、当時の貴婦人たちの憧れの的となり、広く模倣されました。彼女の好んだスクエアカットの襟ぐりは長期間流行し、「ポンパドゥール様式」として知られるようになりました。ポンパドール夫人のファッションは、単なる装飾的な美しさだけでなく、彼女の知性や教養、芸術への造詣の深さを表現するものでもありました。これらの要素が組み合わさり、18世紀フランス宮廷文化を象徴する優雅で洗練されたスタイルを生み出したのです。